宇宙戦艦ヤマト

日曜日の夜7時になると食堂にいた藤本さんが全員を呼びにきます。宇宙戦艦ヤマトが始まる時間です。なぜかこの寮では全員が見ないといけない。というかある一部の先輩方たちが好きでそれを強要するんです。だからこの時間は部屋にいる寮生全員が食堂に集まります。集まると当然アルコールがほしいという声が大きくなります。あっちこっちの部屋からビールを集めてきます。また当時はウイスキーが非常に高価でした。今考えるとなぜ?と思えるくらい。ジョニ黒 ジョニ赤 カティーサーク バランタイン どのお酒も親からせしめてきたお酒。味なんか当然のことながらあんまりわからず ただ高いイコールおいしいにつながっていました。そして

「先週ヤマトはガミラスの攻撃でかなり破壊されたのに、もう修復されてる」

「やられる前に波動砲を使えばいいのに」

「波動砲の原理は」とかどうでもいいことをワイワイガヤガヤと。

工学部の先輩もいるのでそれらしくしゃべります。

そして30分見終わるとまた部屋に戻ります。NHKの大河ドラマなんて見ようともしない。日曜日の夜はこのあとアルコールと一緒にマージャン大会か喫茶室での宴会となり夜が更けていきます。日曜日の夜の長かったこと。

 


マラソン大会 

日曜日の夜、いつものように宇宙戦艦ヤマトを見ました。その日は何故かアルコールを誰も口にしていません。というよりアルコールを買うお金をみんな持ってなかった。1か月のうち月末が近づくとこういう状況によくなっていました。「宇宙戦艦ヤマト」が終了しても食堂で相変わらず馬鹿な話をしていました。そして運命のニュース番組が。マラソン大会の結果をダイジェストで放映しています。

4年の先輩が

「よし 今からマラソンしよっか」誰一人賛成もしないけど反対もしない。

「42KMも走るわけじゃないから西国分寺まで往復ね」とその先輩。みんな無言です。

930分入口集合」その先輩すぐ食堂を出て自分の部屋へ。

なんでみんな反対しないの?というよりみんなあっけにとられて・・・・

みんなサークルは文系のサークル。趣味はと聞かれたら「合コン」なんだから。

僕と藤本さんだけが体育会系 みんな走れるわけないでしょ。

しばらく残されたみんなは顔を見合わせていましたが うすら笑いをしながら一人二人と部屋に戻って行きます。言いだしっぺの先輩はジャージに着替えて寮の前で一人準備体操している。マジ?

いつの間にか先輩は寮母さんまで引っ張り出してきた。スターターと時間を計ってもらうらしい。寮母さんもやめろとは言わない。中学校に通っている息子を呼び出して一緒に走らせようとしている。この寮にはこの寮母さんだね。ぴったり。

みんな思い思いの格好で寮の前に集合。

「よーい どん」言いだしっぺの先輩ともう一人の先輩がダッシュ。寮の前の道を100mくらい走ると右折して西武国分寺線の踏切を越えると緩やかに上りになり少し左に道が曲がっている。二人の先輩はダッシュは終わったけどそれでも結構なスピードで走っている。そしていつの間にか視野から消えてしまった。残りは僕も含めてちんたらランニング。そうは言っても毎日走っている僕と他の先輩とでは違うことは明らか。藤本さんは体育会系だけど少しお酒の量アルコールが多く長距離走には適していないかも。

だんだんとグループの先頭をきっている。でも最初にダッシュした先輩に追いつかないし、おかしいなと思いながら西国分寺まで行き引き返す。

先に走っているはずなのに折り返しても合わないなんて と思いながら寮に一応グループの先頭で戻ってきました。寮母さんに

「先輩は?」

「まだよ」

「おかしいな~ 先頭走ってて見えなくなったんですよ」

次々にみんな帰ってくるけど先頭を走っていた先輩2名が帰ってきたのはかなり後でした。しかも顔が赤い。息も乱れていない。

「いや~あ 途中で苦しくなって喫茶店でちょっと休憩して走ろうと思ったんだけど 隣の席でビール飲んでたから ついね 誘惑にまけてしまった。ごめん」と笑顔で話す先輩たちにみんなあぜん。

そんなことなら最初からマラソン大会するなんて言うな とみんから批難轟々。でもこのあと23回マラソン大会は不定期で開催されました。ほんとに大らかな人たちばかりでした。  サークル活動へ